No.34 トーンバーを厚くする
前回の試作から、かなりの月日が経ってしまいました。 ちょっと考え事をしていると、時間なんてアッという間に過ぎていきます。 とにかく、たくさん悩んだことだけは確かです。
今回作った試作器は、見た目には、今までとそう変わらないソリッドタイプです。 しかし、ピックアップは内蔵していません。 大きな変更するときは、敢えてこのようなシンプルなものを作ることにしています。
そして、今回のテーマは「トーンバー」です。
トーンバーは、最も音に影響が出るパーツです。 その割には、かなり初期のモデルである試作器17号から、全く変えていません。 最初に直感で決めたものが、そこそこ良かったというだけで、何か根拠があったわけではありません。
トーンバーは、「幅」、「長さ」、「厚み」の3つの要素で、音の高さ(音程)が決まります。 ただし、幅は、楽器の横幅と、3オクターブの音域と、弾きやすい間隔から自然に導き出されたものなので、これらを変えない限り変更することはできません。 そして、長さは、音程で自動的に決まります。 つまり、トーンバーで変えられるのは「厚み」だけということになります。
そこで今回は、それを、ちょっとだけ厚くすることにいたしました。
よりボディが響くようになり、音に厚みが出て、音量も増えることを期待してのことです。 せめて、もう少し低音部の音だけでも、なんとかなれば、それだけでも構いません。
しかし「そんなこと、なんで今までやらなかったの?」って思いませんか? 確かに、現在のブリッジに、少し厚めのトーンバーを取り付けるだけで済むように思えます。
ところが、そんなに簡単なことではありません。 多分、取り付けることはできないと思います。 もし、強引に取り付けようものなら、壊れてしまう恐れがあります。 例え、それに耐えることができたとしても、とてもまともに弾くことなどできないはずです。
これは、現在のブリッジが、しっかりとトーンバーを固定しながらも、過度に負荷が掛からないようなギリギリのチカラ加減にしているからです。
それではまず、ブリッジの構造から簡単にご説明いたします。
ブリッジとは、トーンバーを取り付けているパーツ全体の名称です。 そして、単純にトーンバーを固定しているだけではありません。 楽器を持ち変えることなく、親指の最低限の動きだけで、全てのトーンバーが、楽に弾けるような位置調整も大事な役目です。
トーンバーは、「駒(コマ)」、「押さえ棒」、「枕(マクラ)」の3点で固定しています。 または、駒と枕の上に乗せたトーンバーを、押さえ棒で押さえつけているとも言えます。
音は、駒から先の部分が振動して鳴っていると思われるかもしれません。 しかし、実際は、押さえ棒から先の部分が、駒を支点にシーソーのように振動しています。
トーンバーの厚さは、全部で4段階です。 低音部が一番厚く、高音部へ行くほど徐々に薄くなります。 当然、しなり具合も変わってくるので、丁度良く固定するには、押さえつけるチカラ加減を厚さによって変える必要があります。
トーンバーは、同じ音程を出すのに、厚くなるほど長くなります。 また、弾きやすい位置というものがあります。 そこに合わせないと、ものすごく弾きにくいものになってしまいます。
それには、実際にブリッジを作ってトーンバーを取り付けてみないとわかりません。 もし、ダメな場合は、それを踏まえて微調整し再度作り直します。
気がつくと、そんなことを9回も繰り返していました。 納得できるまでやっていたらこのありさまです。 あくまでも、トーンバーの固定ぐあいを見ることが目的なので、楽器を作るための材料を使う必要はありません。 そのへんの手ごろな端材で済ませることができました。 そして、9回目に作ったものを、試作器用にもう一度作り直して、ウォールナットの無垢板に取り付けたのが、今回の試作器34号です。
ついでにデザインも少しだけ変えてみました。
ブリッジの羽形固定板が、ゆるやかなアーチを描いています。 ちょっと見ただけではわからないので、画像に曲線を引いてみました。 中心から端に行くほど、固定板を徐々に小さくしています。 金属部分を少なくすることで、多少なりとも柔らかい音になるのではという淡い期待です。 たぶん、この程度ではそれほど変わりません。 ただ、デザイン的に丸みを付けたかっただけで、特に意味はありません。
さて、いよいよ「どんな音になったのか?」です。
音の響きが、今までとは比べものにならないほど豊かになりました。 これほど変わるのなら、もっと早くやってみるべきでした。
サスティンがより長くなり、ソリッドボディの深いところから響くような気がします。 とくに低音部は、より重厚さが増しました。 中音部の柔らかさも申し分ありません。 高音部のトーンバーは、音が伸びなくなりました。 しかし、この程度なら全く問題ありません。 多分、これ以上厚くすると、音の伸びが極端に悪くなるギリギリのところです。
ただ、これだけ良い音なのに、音量はたいして増えていないような気がします。
最初は、弾いたときの感触が、かなり硬く、とても弾きにくいように感じました。 しかし、少し弾いていたら完全に慣れてしまいました。 それどころか、こちらの方が断然良い感じです。
それから、爪の減りが若干早いような気もします。 しかし、これは私のように1日に何時間も弾き続けていないと判らないことです。
さっそく市販のピックアップを裏面に貼り付けて、音色の調整をしてみました。
ところが、どうにやっても全く良い音になりません。 以前から、ピックアップで拾う音はとても硬いので、イコライザーで補正していました。 しかし、どんな調整をしても、別のピックアップや自作のピックアップに替えても、何日かけても、以前の試作器のような音にすることができません。
もし、音が響き過ぎるようになったことが原因なら、もうどうすることもできません。 今回の試作器は、失敗として諦めるしかないのでしょうか。 音が良いだけに、ものすごく残念で仕方がありません。 しばらくの間、打ちひしがれて、何もする気が起きませんでした。
しかし、それはあるとき突然に思いつくのでした。
そんなに良い音で聴こえているのなら、そのままマイクで拾えば良いんじゃないか。
そう、これならイコライザーで補正する必要もないし、この楽器本来の音を録ることができます。 考えてみたら、フェンダーローズのようなエレピの音に近づける必要もなかったのです。 この楽器でしか出せない音で良いはずです。 いや、そうでなければこの楽器をわざわざ使う意味がありません。
なんでこんな基本的で根本的なことに気がつかなかったのでしょうか。 すべては「ソリッドタイプはピックアップで音を拾うもの」という私の勝手な思い込みがそうさせたのかもしれません。 しかも、今まで偶然にそれがうまくいっていたからなおさらです。 マイクを使って、どのように録るかという課題は残っているものの、とりあえず何とか先が見えたので、メデタシメデタシです。
ただ、さんざん苦労してきたピックアップが、不要になってしまったことは、すこしだけ未練が残ります。 しかし、楽器的にも、私の意識的にも、大きく前進できたので、あきらめがつきます。
そして、今回はこれだけではありません。
以前から、ソリッドボディタイプは、木の堅さや木目の詰まり方などで音質が変わるような気がしていました。 そこで、今回ちょうど良い機会なので、もう1台作ることにしました。
一見同じように見えますが、木目や色合いで、違う試作器だということが判ります。 同じウォールナットでも、こちらの方が約120gほど重く、持っただけでもその違いがよく判ります。 これは、10個ほどまとめて仕入れた木材の中で一番重いものを使用しました。
私の予想通り、このズッシリと重い試作器は、サスティンが長く、音もほんの少し硬く感じます。 これはこれで、それほど悪くはありません。 所詮、音なんてものは好みの問題です。 曲によっては、こちらの方が良い場合があるかもしれません。
などと思いながら、何日か弾き続けていたら、こちらのほうが良い音にも思えてきてしまいました。 以前に作った試作器を久しぶりに弾いてみたら「あれ、こんなに良い音だったかなぁ」なんてこともよくあることです。 木が乾燥や吸湿を繰り返したり、トーンバーが良い位置に落ち着いたりとかあるのかもしれません。
なんだか、ウォールナット以外の木材でも比べてみたくなってしまいました。 桜とか、桂あたりが気になるところです。 案外とアガチスが良かったりするかもしれません。 しかし、これをやりだすとキリがないので、それはまた別の機会にします。
それより、もしこのトーンバーをアコースティックタイプに取り付けたらどうなるのか?がもの凄く気になるところです。
さて、次回の試作器が決まったところで、今回はここまでとします。
